追憶の森

追憶の森(2015年・アメリカ)
原題:The Sea of Trees
公開日:(日)2016年4月29日
配給:(日)東宝東和
時間:110分

監督:ガス・バン・サント
脚本:クリス・スパーリング
出演:マシュー・マコノヒー(アーサー・ブレナン)
   渡辺謙(ナカムラ・タクミ)
   ナオミ・ワッツ(ジョーン・ブレナン) ほか
製作:クリス・スパーリング
   ケン・カオ
   ギル・ネッター
   ケビン・ハローラン
   F・ゲイリー・グレイ
   E・ブライアン・ドビンス
   アレン・フィッシャー
撮影:キャスパー・タクセン
美術:アレックス・ディジェルランド
編集:ピエトロ・スカリア
音楽:メイソン・ベイツ

鑑賞日:2016年5月10日
場所:TOHOシネマズ ららぽーと船橋 スクリーン2 I14


■ Introduction(日本語公式HPより)
邂逅
『評決のとき』から20年にわたりハリウッドの第一線を走り、『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞®主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒー。『ラスト サムライ』でアカデミー賞®候補になって以来、日本を代表する国際派スターとして活躍する渡辺謙。演技力と存在感で映画界に確固たる地位を築いた2人が初めてタッグを組み、驚きと感動に満ちた異色のミステリーを誕生させた。
舞台は富士山の北西に広がる青木ヶ原の樹海。そこを人生の終着点にしようと決めて日本にやって来たアメリカ人アーサー(マシュー・マコノヒー)は、原生林が鬱蒼と生い茂る森の中で、出口を求めてさまよう日本人タクミ(渡辺 謙)と出会う。怪我を負い、寒さに震えているタクミをアーサーは放っておくことができず、一緒に出口を探して歩き始める。しかし、まるで森の魔力に囚われてしまったかのように道はどれも行き止まりで、方向感覚を失った2人は厳しい自然との闘いを強いられる。その過酷な状況下、運命共同体となったタクミに心を開いていくアーサー。やがて彼は、樹海への旅を決意させたある出来事を語り始める……。

■ Story(日本語公式HPより)
富士山の北西に広がる青木ヶ原の樹海。その鬱蒼とした森の中に、恐る恐る足を踏み入れるアメリカ人男性がいた。彼の名はアーサー・ブレナン(マシュー・マコノヒー)。片道切符を手に日本へやって来た彼が樹海を訪れた目的はただひとつ――それは、自らの人生を終わらせることだった。森の開けた場所に腰を下ろし、ゆっくりと永遠の眠りにつく準備を始めるアーサー。そんな彼の目の前に、傷ついた身体をひきずりながら森の出口を求めてさまよう日本人男性(渡辺 謙)が現れる。「ここから出られない。助けてくれ」と懇願する男を放っておくことができなくなったアーサーは、寒さに震える男に自分のコートを着せかけ、出口に続く道へと誘導する。しかし、さっき通ったはずの道はなぜか行き止まりになっており、既に飲んでいた薬にふらつきながら歩いていたアーサーは崖から転落して怪我を負ってしまう。それは、アーサー自身の人生を象徴するかのような出来事だった。
アーサーは結婚生活に問題を抱えていた。原因は3年前の彼の浮気。それ以来、妻のジョーン(ナオミ・ワッツ)は酒に逃避するようになり、事あるごとにアーサーを責めた。さらに、大学の非常勤講師に転職して収入が激減したアーサーと、不動産仲介の仕事で高収入を得ているジョーンの間に生じた経済的な格差が、夫婦の溝をいっそう深めた。ジョーンに対する愛情が消えたわけではなかったが、自分の努力だけではどうにもならない状況にアーサーは苛立ち、苦悩する日々を送っていた。そんな中ジョーンの病気が発覚。夫婦の関係には新たな道が開けるはずだった。
アーサーが樹海で出会った日本人は、ナカムラ・タクミと名乗った。森をさまよう中で小川をみつけたタクミは、「下流に向かって進もう」とアーサーに提案する。しかし川は途中で途切れ、寒さに震えながら歩く2人の頭上には無情にも雨が降り注ぐ。雨風をよけるために2人は洞窟の中に避難するが、洞窟の中に石と鉄砲水が流れ込み、押し流されたタクミは意識を失ってしまう。ぐったりしたタクミを励まし、必死に介抱するアーサー。偶然にもテントを発見した彼は、その中に残されていたライターを使って暖を取り、ひと時の安らぎを得る。
その夜、タクミと共にたき火を囲んだアーサーは、樹海への旅を決意させた出来事を語り始めた。「絶望して来たんじゃない。悲しみでもない。罪の意識で来た。僕たちは相手への接し方を間違っていた」。タクミに心を開いたアーサーの口からは、深い悔恨の言葉がほとばしり出る。だが、その時アーサーはまだ知らなかった。コート、タクミの妻子の名前、岩に咲く花、水辺、『楽園への階段』、『ヘンゼルとグレーテル』――樹海で起きたすべての出来事が1本の奇跡の糸で結ばれることを……。

▶ 映画館環境
TOHOシネマズ ららぽーと船橋 スクリーン2は座席数106、スクリーンサイズ3.8×9.0mというやや小さい劇場。アクセス的に良いとはいえないものの、劇場やロケーションは最高。一日中、映画に浸る場として選ぶのも悪くはない。
I14は最後列、スクリーンやや右寄りの座席。最後列でも問題なし。

▶ 作品レビュー
See of trees まさに樹海の話。樹海を“追憶の森”としたこのタイトルにセンスの良さを感じる。映像自体も日本人が知っている樹海でありながら、そう言えば富士山周辺って世界遺産になったんだよね、というような─新たな See of trees が目の前に広がってくるようだった。とにかく、おどろおどろしいイメージだった自殺のメッカ樹海が神秘的でオシャレな場所に変貌している。青木ヶ原に対する変な固定観念を持たない者は、その広々とした緑の風景を実に美しく捉えているのだなと、あらためてその場の価値を見せつけられた思いがする。
マシュー・マコノヒー扮するアーサー・ブレナンは死に場所を求めてインターネットで青木ヶ原樹海を発見するわけだが、実際に世界の自殺の名所として青木ヶ原樹海がネット上でよく見られる。海外のあるサイトでは自殺者の数から世界の自殺名所をランキング形式で紹介しているところもあり、映画のネタ元もこういった事実にある。自殺名所ランキングの場所をざっと確認すると、ほぼ高所であり、墜落即死を目論んでいることは明らか。しかし、それらを抑えて青木ヶ原樹海がランキングのトップになっているところが面白い。自殺しようとそこへ行っても、即死ではなく、そこで生きるか死ぬかという選択する余地が大いにあるのではと個人的には思うわけで、なんだか優しい自殺場所であり、そういった所が自殺の名所のトップとして君臨するのも悪くないと思ってしまう。死に至るまでの時間がさらなるドラマを生み出し、もしかしたらこの映画のような神秘的なストーリーにも発展する可能性もあるわけだ。
個人的に、この映画は終始ファンタジーとして観賞していた。結果的に、その見方は正しかったわけだが、これを自殺する男2人のリアルなサバイバルドラマとして捉えようとしたのであれば、かなりの違和感を持ったに違いない。
都合のよい遺体、都合のよい出会い、都合のよい避難場所…。ウィキペディアには「本作は第68回カンヌ国際映画祭で初めて上映されたが、自殺のためだけに日本へ赴く、という設定に合点がいきづらかったためか、多くの観客からブーイングを浴びた」という記述─。
確かに、なぜ青木ヶ原樹海なのか、映画の中のあの描写だけでは富士山の樹海をよく知らない人間としては理解に苦しむかもしれない。日本人である自分としては、樹海に赴いたブレナンの気持ちがすんなりと理解できた。そしてまた、樹海に馴染まないブレナンの姿、あるいは日本人であるタクミ(渡辺謙)すらも自殺者らしく見えないことで、この映画は単に自殺をテーマとしているではないということが容易に理解できたし、唐突すぎる展開も分かりやすさや非現実性というものを創り出そうとしているものだと感じることができた。自分は、まんまと作り手側の思惑通りになっていたわけだ。
ただ、ジョーン・ブレナン(ナオミ・ワッツ)の運命に関しては納得できないものがあった。劇中の者を生かすも殺すも作り手側の自由だとは思うけれど、見ている側の気持ちを翻弄するようなジョーンの生死に少なからず憤りを覚えてしまった。まぁ、その憤りこそがアーサーの気持ちだと言われてしまえばそれまでなのだが…。もしかしたら、カンヌでのブーイングはジョーンの死に様に対するものではなかったかと、勝手に想像してしまった。
もともと脚本が先んじて評価されていて、ガス・バン・サントを監督に迎えて、満を持して映画というかたちになったようだ。確かに、非常に優れた脚本だと思ったし、ジョーンの死に方が気にくわないとはいえ、その死こそが重要の要素であり、決して無駄ではない(というか、それこそが物語のキーとなっている)。
日本というものを単にエスニックに描いただけでなく、西洋人としての目でしっかりと日本という国を理解した絵作りになっているため、目の前に広がる新鮮な富士山の遠景にも違和感なく感動できたし、優れた脚本だけに頼ることなく、映像でも丹念に魅せようとしていた(と個人的には感じた)ところに非常に好感を持てた。
個人的にはファンタジックに感じたと言ったけれども、正直、最後の最後までその確証が
つかめなかったことも事実なわけで、それがラスト明確になった瞬間の感動と共感というものは非常に大きなものであった。分かりそうな事柄を分からないように、見事にオブラートに包み込み、最後に“その通り!”と気持ち良く宣言してもらえて、不思議な快感を覚えたといったところだろうか。
今にして思うと、渡辺謙の役どころは非常に難しいものだったということに気づかされる。死に向かってアーサーと出会って、2人は死に向かっているけれどもその意識は徐々に生へと向かい、おっさん2人の彷徨が一対の旅になるように演じなければならなかったわけだし、それらをことごとく表現しきっていた渡辺謙の実力は、間違いなく、世界で認められているところだと確認できた。何とも愛しい演技に、改めて拍手を送りたい。


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