ティエリー・トグルドーの憂鬱

ティエリー・トグルドーの憂鬱(2015年・フランス)
原題:La loi du marche
公開日:(仏)2015年5月19日 (日)2016年8月27日
配給:(仏)Diaphana Films (日)熱帯美術館
時間:93分

監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:バンサン・ランドン(ティエリー・トグルドー)
イブ・オリィ(ハローワークカウンセラー)
カリーヌ・ドゥ・ミルベック(ティエリーの妻)
マチュー・シャレール(ティエリーの息子)
グザビエ・マシュー(組合の同僚)
ノエル・マイロ(ダンス教師)
カトリーヌ・サン=ボネ(銀行マネージャー) ほか
製作:クリストフ・ロシニョン、フィリップ・ボエファール
脚本:ステファヌ・ブリゼ、オリビエ・ゴルス
撮影:エリック・デュモン
美術:バレリー・サラジャン
衣装:アン・ダンスフォード、ディアーヌ・デュソー

鑑賞日:2016年9月7日
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷 シアター1 I-11


■ ストーリー
ティエリー・トグルドー、51歳。失業中で、共に暮らす妻と障害のある息子を養うため、必死に職を探していた。
ハローワークにも理不尽な対応をされ、面接や履歴書のカウンセリングを受けても一方的に批判されるだけで、全てがうまくいかない。
ようやく、スーパーマーケットの監視員という職を得る。それは客の万引きを防止するとともに、従業員の不正も監視するものだった。
幾度となく万引きする客を捕まえ、そして筋の通らない言い訳をされた。それでも何とか仕事に慣れ、生活にも余裕が持てるようになる。
しばらくたつと、従業員の不正が発覚する。それをめぐり、またもや筋の通らない言い訳や、会社側の理不尽な対応というものに直面する。
そしてその時、ティエリー・トグルドーは──。

▶ 映画館環境
ヒューマントラストシネマ渋谷シアター1は座席数200、スクリーンサイズはビスタサイズ 4.9×2.6m /シネスコ 6.3×2.6m と中規模な劇場。
I列は後ろから二列目。この劇場はI列がベスト。I−11席はスクリーン中央。傾斜が比較的少ない劇場だけに、やや前方の席が気になるところだが、中央付近であれば後方でも十分に迫力ある映像を堪能できる。
水曜日の男女ともにサービスデーという日であったためか、平日にもかかわらず、非常に観客が多かった。年配中心、まあ内容が内容なだけに納得の客層。

▶ 作品レビュー
まさに、ティエリー・トグルドーの憂鬱が淡々と続く。
クロースアップ中心に構成された映像は、奥行きを失い平面的。それ故の功罪を挙げると──“憂鬱”という感情が非常によく伝わってくるものの、観賞する上では非常に退屈なもの。相当な覚悟、あるいは志といったものが必要となる。かく言う自分も、激しい睡魔と闘い続けた。当たり前のことではあるけれど、憂鬱というものは見ていて楽しいものではない。
社会的な不安や理不尽さというものは、もはやワールドワイドだと実感する。バカ正直に生きていくことは、愚かなことでしかないのだろうか。誠実の象徴として描かれているティエリー・トグルドーの姿を見ていると、この世の中に全く希望を持つことができない。
そう感じざるを得ないところがこの作品の凄さなのだろう。非現実的なハッピーエンドすら皆無であり、最後の最後まで社会の告発を目論んだように感じた。
しかも、いわゆる映画音楽というものは皆無であり、それがさらに退屈観を募らせる。あくまでリアルな目線で、ティエリー・トグルドーという個人を通して巻き起こる小さな出来事が続くだけ。劇的な出来事など何も起こらない。それ故に尚更、見ているこちら側が能動的に映像が語る事柄を捉え、頭の中で必死に思考しながら鑑賞せねばならない映画かもしれない。
普段、我々がテレビや映画を楽しむ際、常に受け身の姿勢で映像を捉える癖がついてしまっている。見る者を離さないよう工夫された映像は魅力的であり、丁寧に作り込まれている映像であればあるほど見ている側の喜怒哀楽が出るというもの。称賛される映像作品は、自然と感情に訴えかけてくるものだ、と多くの人は言うことだろう。
この作品は、こちらが懸命に思考しなければ、映像に対する感情は何も生まれてこない。受動的にただ漫然と画面を眺めているだけでは、単に醜悪な映像が流されているものと判断されるのかもしれない。そうなってしまうと、この作品はつまらないもの、酷いもの、最悪な映画と見なされてしまうわけで、その危険性の方が大きいといえるだろう。
眠りに落ちればまだ幸い、眠ることができなければある種拷問…そんな酷い感情を持たないように、普段から映像に飼い慣らされないような努力をしておきたいところ。洗脳というものを避ける意味でも、賢明な訓練だと思うのだが──。
思考しながら鑑賞することで、この作品が訴えかける何かをつかめるかもしれない。ぜひつかんでほしいところ。かく言う自分も、なかなか的確にすべてをとらえ切れたとは言い難い。非常に難しい映画─。しかし、臆することなくこのような果敢に気むずかしいヨーロッパ映画に立ち向かっていこう、と改めて思っている。

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