世紀の光

世紀の光(2006年/タイ・フランス・オーストリア合作)
原題:Sang sattawat
公開日:(米)2015年3月27日 (日)2016年1月8日
配給:(タイ)Fortissimo Films (日)ムヴィオラ
時間:105分

監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:ナンタラット・サワッディクン、ジャールチャイ・イアムアラーム、ソーポン・プーカノックほか
撮影:サヨムプー・ムックディープロム
編集:リー・チャータメーティクン
音響デザイン:清水宏一、アクリットチャルーム・カンヤーナミット

鑑賞日:2016年1月13日
場所:イメージフォーラム シアター1


■ ストーリー
前半は地方の緑豊かな病院、後半は近代的な白い病院が舞台。
微妙に違う似通った話が前半と後半という形で反復される。
自然の光と人工の光。過去の記憶と未来への慄き。変わりゆく人間と変わらない人間。
繰り返されるストーリーから、繫がりと変化を感じとるように仕組まれており、それをどう判断するかは見ている者に委ねられる。
ラストを飾る音楽は日本のバンド「NEIL&IRAIZA」のポップソング。それまでの映画のテイストとは全く違ったメロディーを、果たしてあなたはどう感じることだろう。
タイの天才が贈る“微笑み”と“驚き”の傑作、それが『世紀の光』。
2006年の作品でありながら、ようやく日本での劇場初公開となった。

▶ 映画館環境 
イメージフォーラムのシアター1は座席数64の小劇場。全席自由席。
いつもながら幅広い年齢層が観賞している。平日の夜からの上映で、20〜30人ほど見ていただろうか。まぁまぁの入り。
施設や設備がそれほど新しくもなく、最新の器機を使用している感じもしないけれど、個人的には建物自体の雰囲気など非常に気に入っている映画館。見たいと思って足を運び、失敗したという思いに至ったことがない。良くも悪くも自分にとっては意義ある作品ばかりに出会えている気がする。自分と相性のいい映画館。

▶ 作品レビュー
非常にゆったりとした映画。長めのフィックスを多用し、ズームやパンも常に超スロー。映像は不思議と白いイメージに包まれていて、透明感が溢れている。
恋のエピソードを中心に据えて話が展開していく。恋そのものがユーモアや分かりやすさというものを生み出していて、抽象的な印象がするこの映画のアクセントとなっている。
繰り返されるストーリーに、輪廻の思想を感じた。仏教国であるタイならではの作品だという個人的な認識。
監督の見解によると、特段、輪廻という思想は出てこない。過去に対する執着と、想像するものすべてが過去からのものだという意識が強いようだ。過去のものが繰り返されたり、過去のものが変化したり、過去にはなかったことが起こったり、─過去を基準にしながら普遍性を表現することを目指しているそうだ。
前半部分で舞台となる病院は、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が生まれ育ったタイ北東部コーンケンにあったものを思い出しながら再構築したものだという。
監督は断言する「(記憶が)唯一の(映画制作の)衝動といえるくらいですよ!すべては記憶の中にあり、映画というものの本質もそこにあると思います」と─。
前半部分は監督の記憶をたどった結果であり、後半部分はそれがさらに再構築されたものと考えると、非常に納得がいく。
とはいえ、やはり個人的には、タイ特有の仏教思想が反映した作品だと考える。登場する、僧侶、軍服の男性、仏像、草木、どれをとってもタイの社会そのものが表現されていると感じる。どこまでも続いていくという普遍的な思想がタイの中には根づいているような気がした。それが果たして、本当にタイの根源的な思想なのかあるいは監督独自の思想なのか明確な判断はできないけれども、この映画の世界観は輪廻転生そのものだ。
知的で映像的に優れた映画だとは思う。ただ、もう少し楽しませてくれる演出を欲してしまう。輪廻を描くにしても、もっと違ったストーリーを展開させても良かったのではと思ってしまう。それは監督の志に反することかもしれないが、客観的に面白くさせようという考えをもっと持ってくれると、非常に好きな監督になりそうな気がする。これからもっと、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の他の作品を見てから判断したいところ。
この作品のエンディングは非常に気に入っている。それまでとは一転、軽やかな音楽と映像が繰り広げられて、清々しく終わってくれる。これを見ると、この映画は明らかに監督の好き勝手に創り上げられたものだと判断できる。ここまで独自の世界を構築できるのであれば、それはそれで結構なこと。しかし、この非凡なる才能を持っているからこそなおさら、自らを一歩離れた視点を映画の中に盛り込んでほしいと思ってしまう。
かなり評価されている監督であるから、客観的な視点で以て作品をつくり上げていることは間違いないだろう。しかし、この映画は明らかに独りよがりが強い。それでも自分は楽しむことはできたけれども、これを否定する人は少なくないだろう。
果たしてアピチャッポン・ウィーラセタクン監督はどこまで進化しているのか、これから公開される最新作「光りの墓」などを見て、またあれこれ述べてみたい。



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