ダイ・ビューティフル(2016年・フィリピン)
原題:Die Beautiful
時間:120分
監督:ジュン・ロブレス・ラナ
原案:ジュン・ロブレス・ラナ
脚本:ロディ・ベラ
出演:パオロ・バレステロス
クリスチャン・バブレス
グラディス・レイエス
ジョエル・トーレ ほか
撮影監督:カルロ・メンドーサ
編集:ベン・トレンティーノ
作曲:リカルド・ゴンサレス
プロダクション・デザイナー:アンヘル・ディエスタ
鑑賞日:2016年11月2日 第29回東京国際映画祭コンペティション部門 ワールドプレミア
場所:TOHOシネマズ六本木ヒルズ スクリーン9 I-20
■ 作品解説(第29回東京国際映画祭 公式HPより)
美女コンテストで優勝したトランスジェンダーのトリシャが突然死してしまう。彼女の望みは、埋葬前に幾夜も行われる儀式で、毎回違うセレブの装いをまとうこと。友人たちは団結してトリシャの願いを叶えようとする。トリシャが生きた、カラフルでちょっと変わった一生を思い起こしながら。息子として、姉として、母として、友として、恋人として、妻として、そして女王としての人生を。
『ある理髪師の物語』(13)でユージン・ドミンゴにTIFF最優秀女優賞をもたらしたラナ監督新作は、またもや俳優が見事に際立つ作品である。トランスジェンダーのヒロインの笑いと涙に満ちた生涯と、レディ・ガガの姿で逝きたいという彼女の遺言を叶えようとする友人たちの姿を、巧みなフラッシュバックを駆使して感動的に描いてみせる。苦境をはねのける明るさと、生への肯定に満ちた人物像の創造こそが、ラナ監督の真骨頂であるといえる。驚異的な存在感を発揮する主演のパオロ・バレステロスは、フィリピンのバラエティ番組のホスト役などで活躍しており、有名人になりきるインパーソネーター、そしてメークアップ・アーティストとして知られている存在である。
▶ 映画館環境
第29回東京国際映画祭コンペティション部門
TOHOシネマズ六本木ヒルズ、スクリーン9、スクリーンサイズ5.3×12.7m、座席数258
I列は前方から9列目、劇場やや後方、プレミアシートの真後ろ、I-20席はスクリーン向かって右寄りの席。会場はほぼ満席。
▶ 作品レビュー
自らもLGBTだと公言している監督が、2014年に実際にフィリピンで起こったトランスジェンダー殺害事件に衝撃を受けて制作した作品だという。殺害という事実もさることながら、ネットなどに「トランスジェンダーは殺害されて当然」という趣旨の書き込みが多く見られたことに深い悲しみを覚え、LGBTへの無理解を少しでも払拭できたらという強い思いが込められている。
とはいえ、作品は全体的に華やかで楽しいものであり、非常に感動的。と同時に、LGBTへの偏見や迫害といった要素もしっかりと盛り込まれており、それをはねのけて華々しく散っていくトランスジェンダーの姿が描かれている。まさに、実際にあった殺害事件とは真逆の死を創り出そうという意図も感じる。
正直にいうと、映画のように男性として生まれてきたトランスジェンダーがミスコンに出場してトップを目指すという気持ちなど全く理解できないし、そういった人たちが養子をもうけて本当に大丈夫なのかという偏見すら持っている。
しかし、それは個人的な想像の域を超えないものであり、経験値とか実際のデータといったものなどを全く無視した見識、つまりはLGBTに対する無理解の何ものでもない。
実際に監督自らLGBTとして養子を育てているというし、その経験が作品に反映されていることは間違いない。そういったことからも、この作品には根拠のない偏見を打ち崩すだけの力が秘められているといえよう。
劇中特に印象深いものとして、女性有名人になり切るメイキャップというものが挙げられる。日本でいうと、ちょうど“ざわちん”がメイクで誰かに変身するようなものであり、この映画では棺桶の中のトリシャが衣装やメイクを駆使しアンジーやガガになり切っている。その変身は見事なもので、単に似ているというものを超越した美しさがあり、そこのところの美を少しでも感じとることができれば、LGBTに対する見識は少しでも変わるのではなかろうかと思ったほど。
罵声を浴びせられながら死んでゆくのではなく、セレブリティとして華麗に死にゆくトランスジェンダーにぜひとも喝采を浴びせてほしい。
この印象的なメイク、なんとトリシャ役のパオロ・バレステロスが自ら施したものだというから驚いてしまう。もともと、こういったメイクが得意だったらしく、有名人になり切って死んでいくという設定も、たまたまパオロ・バレステロスがそういった能力を有していたということから映画の中に反映させたという。トリシャという存在をいかに美しく捉えるかということを常に考え、制作手法もそれに沿って変化していったという。それがTIFF2016最優秀主演男優賞という結果に繋がったことは間違いなかろう。
そして何よりもこの作品がTIFF2016観客賞を受賞したという事実。多くの人が美しく華麗に散っていったトランスジェンダーに賞賛を送ったということだ。
コンペティション上映終了後、まだ各賞が発表される前、制作陣と観客のQ&Aセッションが行われ、観客から発せられる絶賛の声に監督が思わず涙ぐんでいたのが強く印象に残っている。そこには映画制作という枠を超えた歓喜があった。
この一本でLGBTへの偏見が完全に払拭されるはずはないけれど、何かしらの変化は期待できる。とはいえ、小難しく考えずに、気軽に見て笑って涙してほしい。作品を見て楽しむことが、LGBTへの理解に繋がっていくはずだ。
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